詩集『乾杯』橋爪さち子/渡 ひろこ
ッグバン/すべては揺らぎから始まった兄弟であり/細胞も牛蒡もトマトもみんな/
同じ星のリズムに漲ったミクロの宇宙だから/こんなにも熱く原郷を振り返るように/
空を見上げる/たとえこの水の星が/取り返しのつかぬほど傷ついているとしても/
恋しくて恋しくて共に滅びもしよう
(「細胞も惑星も牛蒡もトマトも」)
奥行きが深いのである。ともすれば言葉が現象の上辺だけをなぞりがちになるところ、行間をまたぐ瞬間に遠い先まで見渡せるのだ。
著者の重ねた年月に繰り返された出会いと別れ。その織り成す記憶の残照が、ますます視界の透明度を高めていくのだろう。
自らの生と死を祝祭に近づけようとする浄化された精神が紡ぐ言葉は、生きとし生けるものへの慈しみに溢れている。
「詩と思想」5月号に掲載
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