恐ろしい生き物/光井 新
好きよ。でもたぶん、帰ったらもう二度とあなたとは会えない気がするの。だから私、ずっとここに居る」と言った。
ザリガニは呆れた風に「勝手にしろ」と言い、二人の生活が始まった。
金魚と一緒に居る間、ザリガニは何も食べなかった。もしも自分が食事をしている姿を見られれば、怖がって金魚は自分の元を去ってしまうとザリガニは思っていた。
そんな生活の中でザリガニは、日に日に弱っていきながら穏やかな気持ちになり、このまま死んでしまうのも悪くないと思うようになっていた。
いよいよ動けなくなってしまったザリガニは、意識の朦朧とする中「お前と一緒にいて楽しかった」と金魚に言った。
すると金魚は「すぐに食べ物を持ってくるから待ってて」と言い、何処かへ行ってしまった。
「こっちよ、こっち。もう死んだから大丈夫よ」
「そうか、どれどれ。昔は虐めたりしてごめんね」
ザリガニが最後の力を振り絞って目を開けるとそこには、一匹の鮒と、初めて見る、自分よりも恐ろしい生き物が居た。
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