恐ろしい生き物/光井 新
 
 寂しむザリガニが一匹、紅一点鮒達の中で泳ぐ金魚に見蕩れていた。今まで見た事の無かった金魚の美しさに唾を呑みながら、ザリガニは近寄る事のできない自分にもどかしさを感じていた。
 そこに金魚が、鮒達の「危ないよ」という制止を振り切り近付いて来た。
 金魚は「あなたも一人ぼっちね?だって周りに誰も居ないもの」と訊ねたが、その問いにザリガニは答える事ができなかった。近寄る生き物は全て、この辺に居た同族のザリガニさえも食べてしまった、その過去を語る気にはなれなかった。
 暫くしてザリガニは「お前は一人ぼっちじゃないだろ」と言うと、ハサミで水中を切って見せた。
 それを見た金魚は「凄ぉい」と言いなが
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