「嬰子の褥」返詩 胎児のわたしから母へ/夏嶋 真子
{引用=嬰子の褥
闇のひとつ奥に蠢動する白光体がたしかにあった
血に焼かれた嬰子が視えない手のひらに止まって
私の身体に続いている
いやへその緒はぜんまい状に闇に溶けて
それはもうわたしから切られた存在であるにはあったが
その心臓音は両の耳鳴りと呼応して
嬰子は時限爆弾のように私の生存を秒読みに告発した
死にではなく生に追いやる破壊力をそれはそなえているらしい
時計のカチカチ 眼から脳裏に映像化される硬質音より
うるおった水気のある心音が闇をうるませ
夜の中で私は海に遊んでいる
眼のあかない乳飲みの猫の母親のいないひとり
の暗い柔らかさから
抜け毛の老い猫の死期
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