すべて取り違えてみた声と体/水町綜助
ン
こいつは咬みはしない
首筋の裏から毒を出すんだ
透明な淡緑色の稲がいちめん
回転して広がる里山の窪地で
遠く空砲の音が響いて
かかしはそのまんまカラスに舐められている
すべて似せた恐怖が
夏の僕に襲いかかり
僕は ぱたり ところんだ ヤマカガシは咬む蛇だった…
ちょうどのぞき込んだ水路の奥の 毒も飛ばす…なんてことだ…
針穴ほどの光が恐ろしかった夜空
その夜の中に
そんなピンホールから刺す光が無数で
縦じまの果実の皮を打ち捨て
頬には果糖のべたつきがあって
皮膚をひきつらせていた
口を一度大きく開いて
あくびのようにひらくと
涙がでた
突っ張った肌を伸び切らせて
ゆるめてみただけなのだ
それで泣くなんて
どういうことだ
戻る 編 削 Point(10)