産 道/亜久津歩
 

人体なんてものは
ただの
いっぽんの管と
つめたい椅子の上

炭水化物や窒素や湯が沸するのを待つ七分間や
この壱拾円玉やアイベツリクや若年性痴呆や
通過してく、それぞれの……
(言語や像などもまた)

すべて記しておきたい
遺したい憶えていたい
思う夜もあった



待 つ。

わたしの詩神(ミユーズ)は牡(オス)なので
ふらり抜けて行ったと思えば
素知らぬ顔で傍に寝ている
柔い胚芽を孕ませて
またついと離れゆく
そして忘れよう
放さない掌は
摑めないことを知り

―単なる産道として
     存在すればよい

と思うのだが
妙な記号や意味合いが
生まれくるものの
じゃまをする。

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