檸檬/柊 恵
 
の看板をみて言うと
小さく左右に首を振り
じっと僕を見つめる大きな瞳
逸らさずに見つめ返して
彼女の手を引く



秋の夜は長くて
灯の無い闇は優しくて
燃え残る激しさを
全て忘れさせてあげよう
そう思った

窓用エアコンは音ばかり
二人は すぐに ぐっしょりと
互いの体液に塗れているのに
顎からの雫が
彼女の顔に落ちないように
そんなことを気にする自分が
可笑しかった

ねぇ、今のは
泣いていたの?




携帯アラームで目が覚めた

「おはよう」
恥ずかしそうに微笑む彼女
「シャワー浴びてくるね」



空が高い
日が雲を柔らかに照らす

秋は朝がいい

お互いに聞かなかったから
名前も携番も知らない
もう二度と会うことも無いのかな…
遠く見送る
街に彼女が融けていく
噛じる檸檬が少し苦い









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