耳をなくしたきみへ/ゆるこ
 
わたしの水の中に
あなたの耳だけ寝そべっている
小さな胎児みたいに
ゆらゆらと漂っている

わたしの声が
最後にあなたを満たしたのはいつだったかしら
瞳を瞑りながらわたしを探すあなたの指先が
いまでもとても愛しいの


あなたのこころに触れていたかった
わたしの声に触れて欲しかった
あなたの耳はわたしの中で
ずっと ずっと 漂っては浮き沈みを繰り返す

薄い鼓膜が
あなたのだいすきな鯨の胃の中にあればいい
わたしはそれだけで
涙を流さずにあなたを抱き締められる気がするから




あなたにもっと
愛を囁けばよかった
わたしの声を好きと言ってくれ
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