不倫、哀しい方程式、直説法複合過去的動詞変化/ふくだわらまんじゅうろう
んかではなくて
彼女と海を見に行く
潮風に吹かれて
蛤を焼いて
ビールを飲む
ホテルに寄って
彼女の股に
この身を沈める
あの女子社員はどうやら本気なようだ
目が合うと
表情でわかる
私は笑顔でごまかす
でもごまかしきれていない
「お休みの日は何してらっしゃるんですかぁ?」
それは建前の言葉だ
「わたし、知ってるんですよ」
私にはそう聞こえて仕方がない
女たちの視線が突き刺さる
「あたしは悪くない」
「わたし、知ってるんですよ」
「あら、チョコなんか貰っちゃって」
手がかさついて
シルクのネクタイが毛羽立って仕方ない
「あたしだってね
結婚なんて
考えてないわけでもないけど
そんなことより
いっそ
バーのママにでもなってしまいたい気分よ」
一日いちにち
虚ろに過ぎてゆく
女たちは
どうしてあんな声を出すのだろう
気持ちいいのか
哀しいのか
悦んでいるのか
怨んでいるのか
どうしてあんな声を出すのだろう
どうしてあんな声を出せるのだろう
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