アルハンブラ、上空二百メートル、風力ゼロ/ふくだわらまんじゅうろう
 
     アルハンブラ、上空二百メートル、風力ゼロ




出そうになるよ
あの頃を思い出して
そんなにしあわせでもなかったはずなのに
懐かしすぎるんだ

ぼくは君のこと好きじゃなかったし
君はぼくのこと好きじゃなかった
そこには肌一枚の隔たりと
ジェット機で十七時間かかる道のりが同時にあって
ぼくが絵葉書で愛を告白すると
君はぼくの左腕を抓った

一泊千五百ペセタの安宿の
パセオから山形弁のお喋りが響く
いま何時だと思ってんだ
喉が渇いてうまく喋れない

君は公園でぼくを見かける
ぼくは喫茶店で君に声をかける
このダイヤルをいくら回し
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