リタのことを憶えている/甲斐マイク
遠く月の裏側で生まれた双子は
痩せたブナの木の下で深くお祈りをする
夜にぶら下がったみずみずしい雨は二度上がり
翌朝 ひとつの名前が届いた
世界は叙情で出来ている
ほんの少しの鉄と煙を含んで
大人になる前に知っておきたかった
「僕はリタのことを憶えている」
ある日こんこんと寝静まる部屋をあとにした
小さなリュックに荷物をつめこんで
素敵な名前を手に入れたかわりに
双子はひとりになっていた
世界は叙情で出来ている
大切なものは目に見えないこと
生まれる前に知っておきたかった
「私はリタのことを憶えている」
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