「 卒業証書 」 〜母校の教室にて〜 /服部 剛
車窓から眺める市役所の
時計の針は17時47分
僕は夜の映画館に向かって
ゆっくり走るバスに揺られながら
先生と再会したひと時を思う
日中、母校の校長室で会った先生は
三十八年間の教員生活の
最後の一日を終えて
今頃車の運転席に身を沈め
鍵を廻す頃だろう
*
「六年二組の教室にいこうよ」
ふだんは静かな先生が
眼鏡の奥の瞳を輝かせ
校長室の机で向き合い語り合う
僕達は立ち上がった
二十二年前と変わらない
灰色の壁に囲まれた
薄汚れた階段に
靴音を響かせ
三階まで上がり
無人の教室
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