死の冷たさについての素描/岡部淳太郎
 
な機会に接することはなかった。だから、死というものに対して、徹底的に観念的で曖昧模糊とした感じしか抱くことが出来なかった。妹の死によって、はじめて身近に死を感じることが出来た。その時、僕は思ったのだ。死は恐ろしいと。
 人が生きる時、ほとんどすべて相対性の中にいる。生とは、いまここで何をしたら未来はどうなるかという確率論的な問題であって、こうすればいいという絶対的な答などはない。だからこそ人は悩むのだし、逆に言えば、人によって様々な生き方を導くことの出来る、生の多様さへとつながってもいる。生きているのは自分ひとりではなく、他の人々や自然や動物や人工物といった周囲の様々なものとの関係性の中に生はあ
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