死の冷たさについての素描/岡部淳太郎
出来事でもあるので詳しいことは省くが、僕がいまさらながらに思い出すのは、妹の遺体に触れた時の冷たい感触だ。遺体を棺に収める前に、死装束の最後の仕上げとして手甲や脚絆を遺族みんなでつけてやった時のことだ。その時、妹のもう動くことのない手足に触れて、そのあまりの冷たさと硬さに驚いた。いわゆる死後硬直というやつだろう。言葉では知っていて、何となくそんなものかなと思ってはいたのだが、実際に死んだ人間の遺体に触れてみると実感できる。これが死の冷たさなのだと。それまでに家族や親類で亡くなった者は母方の祖父母だけで(父方の祖父母は、僕が生まれる前に亡くなっている)、離れて住んでいたということもあってそのような機
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)