初夏/凪目
匂いがする
花の匂いだ
こいつの名前知ってる、と問いながら
ごくしなやかな動作で
友達のしめった手が
その花のくきを折った
(売店でなめたアイスクリーム)
錆びねじ曲がった標識に
麦わら帽子がかけられていた
ぼくはそれを取り上げ、かぶり
水田の気配を
背中に感じる
どこからか、子供のなき声がしていた
(気配の絶えない涼やかな林道)
汗のしみついたコンクリートの上で
ぼくはひとりだった
喧騒が遠くで
耳鳴りのようにこだましている
生ぬるい午後の突風で
麦わら帽子が飛んでいく
(街区までの道のりは長く短く)
あぜ道はどこまでも続いている
太陽の存在だけが濃く
強く影を染めていく
ぼくは考えていた
さなぎだったころ見ていたもののこと
無人の下町を横ぎっていった野良猫のこと
それから焦げるような海の、濃厚な寄せ波について
(プールでの呼吸にちかい午睡)
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