春の海鼠/ふくだわらまんじゅうろう
春の海鼠
ああ、そうさ
まったくもって
やりきれないことだよ
だからと言ってこれもひとつの現実だよ
窓の外には恵みの雨がざあざあと降って春の空を洗っているよ
行き場を失った恋人たちもタバコ屋の軒先に居場所を見つけるさ
だけど君は肝腎な桜の花びらでつくった目印をどの家の扉につけたのか忘れてしまった
仕方ないさ。メクラナマズも迷子になってしまったよ
それでもそうやって寿司屋のカウンターに相席を見つけたのだね?
だけどサヨリの皮を炙ってはもらえなくても文句は言えないよ
「そうさ、オイラは、一番気持ちイイ!」
夕暮れの一雫を彼女のカクテルに搾ってやれる
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