アブシの涙/狸亭
ではない
女嫌いでもなければ
ホモでもない
パレスチナの高い夜空に
星はびっしりつまっていて
おじいさんや
おばあさんや
父や母や兄弟や姉や妹や
大勢の家族たちの夕餉
みんな大声で
星がばらばらおちてきそうな
幸福な夜
阿鼻叫喚が襲ったという
シオニストたちがやって来たのだという
とつぜんに
ある日とつぜんに一家離散
アブシは一人になったという
アブシはだから
一人の係累も持たないし
持ちたくもないのだという
三流ホテルの固いベットに座って
アブシの頭は禿ている
暗い電灯に光っている
両耳のつけ根にかろうじて
わずかな髪の毛がへばりついている
今日のアブシはやけに小さい
アブシの涙を見た
もう十年以上もすぎたのに
なぜにいまごろ
アブシの涙を思い出すのだろう
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