春の入院/猫のひたい撫でるたま子
急に入院してしまった昔の恋人に頼まれて、花見をしていた奥多摩から病室へとかけつけた。携帯電話の充電器が欲しいのと、家の荷物を明日届けて欲しいので鍵を預かって欲しいということだったが、本当は誰かの顔が見たかったんだと思う。私も頭を打って入院したときにそうだった。
阿佐ヶ谷の彼の家で服やパンツなどの家捜しをしていると、ゴミ箱が満杯、缶やビンの飲みかけなどが散乱しており、つい片付けてしまった。干したままの洗濯物の靴下を裏返しているときに、何故五年も前の恋人の靴下をたたんでいるのかと不思議に思った。これは愛情からなのか、一人暮らしで帰ってきてから部屋が荒れていては不憫だという思いやりからなの
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