無関心について/パンの愛人
 
のである。それはどのようなエチカも及ぶことができない。

 事実をかえりみないということは、世界を偽るということであり、それは同時に自己を偽ることである。それはやがて自己否定、自己欺瞞へと直結する。自己否定者は圧制を求め、圧制者は自己否定を求める。私が事実に固執するというのは、こういったこともおおいに関係している。

 詩にかぎらず文学は嘘の産物であるという考え方もあるが、この場合の嘘というのは、つねに確保された最低限のコミュニケーションの通路があり、そこには自己と他者への全面的な信頼という不抜の信念が、陰に陽に内在している。
 むろん、嘘は文学者の特権ではないし、文学者が嘘のスペシャリ
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