画板/しべ
 
切通しの森より
艶やかな靄の衣で
じっとり舐め尽くす

貫通扉を抜け出して
男がひとり
つったってる

細長い腕
コーデュロイに合わせた色の鞄で
絵描きと名乗る

白樺のコートでお辞儀して
海原と貨物船を
息巻く汽車
焼け付く色数を
取り出して

僕は見るが
それは月だ

揺れる言葉
割れた画板と湿った指の3本は
絵の具の値段
はたまた年月

いずれにせよ
眠くないようだ
この男

竜胆の灯が鳴く
楽想だけの踊り子や
無骨なタブローを
売れないから一昨日、くべた
なんて平然と

踏切の浮かぶ窓
その窓だけ隅々を映すなか

そういえば
あの少年はどうしたろう

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