さよならシティ/山中 烏流
 




蟻の巣から
冠に溺れた少女が這って来て
私を見るなり
大声で泣き出した

大きく膨らんだお腹が
きっと
動きづらいのだろう

靴裏が
その姿を哀れんで
ぷちり、と一つ
音を鳴らす


そういえば
あれから、蟻を見ない



   *



手を振りながら
逃げていくひとの背に
人差し指を構える

引き金が見当たらないのは
そういう物だからだ、と
私の後ろから
誰かが

私を撃ち抜いていく



   *



踏み切りの音がする

少女のいたベンチには
どこか、を見ている女が
だらしなく座るようになった

そういえば
音が鳴り出してから
もう、随分と経ったような
そんな気がする



   *



今日も、電車は来ない








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