宵の挨拶/北街かな
 
 三日月がいっそう薄目がちにほろほろ涙を零しておりましたので、私まで悲しくなってしまい、ほろほろと泣いてしまっていたのです。

 私が泣いたからといって、月がゆっくり安寧のなかに眠れるわけでもなく、私が泣いたからって、私にとり憑いたざわめきの悪魔が蒸発するわけでもないのに。わかっているつもりでありましたが、それでもさめざめと両の目より、月から受けた光を落として落としきってしまう以外、すべが見当たらなかったのです。この夜があまりに透明に鋭く尖り、無礼にも私のメンタル・テリトリを微細に分断しようとするので、困りに困り果てたその末の所業であったのです。

 三日月はたまに輪郭を滲ませてぐにゃりぐ
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