泥/壮佑
街のあらゆる隙間から
浸み出てくる泥に追われて
JR駅構内の暗がりの
打ちっ放しのコンクリート壁に
ひっそりと身を寄せる
壁に走るひびはハイウェイ
ところどころ露出した
砂利の集合は街
ビルの屋上に
給水タンクがあり
煙突と鉄塔と
平野に広がる家々がある
見詰めるたびに
壁は透明さを増し
青空と
白い雲と
ゆるやかに蛇行する川
ずっと遠くには
きらきらと輝く海が見える
おまえはいま
ここで 生まれたのだ
海の向こうの大陸から
にぎやかな列車が到着する
コンクリート壁の
この時 この場所で
待っていよう
街を覆い尽くす泥を
呑み込まれても構わない
もともとおまえは
泥だったのだから
壁の呟き声が聴こえるか
―泥には固有の速度がある
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