手品の妙/亜久津歩
 

ここに硝子の器があります

珈琲を、淹(い)れました
それは「食器」になりました

水とメダカを、入れました
それは「水槽」になりました

百合を一輪、挿しました
それは「花瓶」になりました


いつかは
色褪せ
罅割れて
破片になると
知りながら
器は「名前」を求めていました
器は「意味」を求めていました
自分が自分であるために
ソンザイカチのあるように


硝子の器がありました

空のままでもうつくしい、

一つの器が、ありました。

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