遺影のまなざし ー四十九日前夜ー /服部 剛
門を出てゆく孫を
祖母の育てた柚子の木が
手を振るように葉を揺らし
覚束(おぼつか)ないこの足取りは
風の声に励まされるのです
今こうして書いているような
一篇の詩を綴った夜は
祖母の部屋に正座して
骨壷の前に
(ありがとう)の言葉を添えて
手紙のように置くのです
マッチを擦って
二本の蝋燭に火を灯し
線香を立てる
小さな棒を手に
生前の祖母が毎朝
仏前で鐘を鳴らしたように
微かな音が
畳の部屋に響く
薄っすらと昇る煙の
向こうから
祖母の遺影が(お疲れさん)と
ほころんだ
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