博士の愛した異常な数式/影山影司
たく興味を持たないので、名誉やら権利だのはもっぱら他人の手に渡ってしまって、博士の名前は一般に知られていない。彼の所属する『研究室』というヤツもそこらへんを心得ていて、博士に幾らかの金を渡す代わりに彼の研究内容を掠め取っている。
私は秘書という名目で雇われている。だが実質、博士の同居人のような立場であった。食事の用意をして、自らのもののついでに洗濯と掃除をして、あとは博士の研究室の長椅子に寝そべって本を読んでいた。
博士は「部外者が静かに傍で座っていないと、落ち着かん」と言っていたが何と難儀な性癖だろうか。
私は元々口の達者な性質では無いので、この役に向いているのだろう。気まぐれに
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