100分の1の幸福 /服部 剛
「なかなかいい詩が書けんのぉ・・・」
30過ぎの愚息が言えば
「そんなもんよねぇ・・・」
60過ぎの母は言う
「100のうち1ついいのが書ければ
しめたもんだよ、おっかさん 」
「100のうち1ついいことがあれば
上出来なんだよ、お馬鹿さん 」
母親に小さい頃に連れられた
いつかの映画館で
晴れやかにデカい顔した寅さんが
江戸川の土手の芝生と青空を背に
「満男、人生はなぁ、何度か
生まれてきてほんとうによかった・・・と
思う日のため人は皆
荷物を背負って歩いてゆくんだよ 」
スクリーンから暗い客席に語りかけた
あのシーンが蘇る
「 100分の1の幸福、か・・・ 」
先月三途の川を渡った祖母の手を握り
最期を看取った
初老の母の手首には
介護疲れで持病になった瘤がはれている
来月生まれる孫の世話をしに
雪国に嫁いだ
おなかの大きい娘の家へゆく母は
明日の飛行機に乗り、雲の上を飛んでゆく
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