雪の手紙/夏嶋 真子
書き出しの言葉は、思いつかないから前略。
今年の東京は春が来るのが早いよ。
本当の冬は来ないままだから、故郷の二月、思い出してたところ。
−20℃、ダイヤモンドダストを肺に吸い込む日、形容詞は寒いじゃなくて痛いが正確。
大雪の日にはママさんダンプで雪かき、汗かき。
車でいけば5分なのに、父さんにせがんでそりをひいてもらった真っ白な道。
雪合戦、どんなに力いっぱいにぎりかためても、さらさらさらさらパウダースノー。
降る空に、てのひらを差し出せば結晶のままの雪がのっかる。
昔、物理の授業で、「雪は天からの手紙」って習ったのが
わたしの好きな言葉だよ。
東京の冬は故郷の冬とは別の季節。
水を含んだ白がうれしくて、でも雪だるまをつくるのは、
もう、さすがにはずかしくて
部屋の中で、はしゃいだ去年。
ねぇ、今年、この街には雪が降らなかったんだ。
雪は降らなかったんだ。
キミへの手紙、宛先不明。
戻る 編 削 Point(10)