春の気配/川口 掌
 



流れ続ける川は
いつしか海へと流れ込む
山の中腹にある
大きな岩は
長い 長い 年月の間に
少しずつ 少しずつ
その身を削られ
円く滑らかになっていく


隣の町では
話好きのお坊さんが
お布施の減ったのを嘆きながら
このままでは
数年後にはお寺を
たたまなければならないと
深く 溜息をつき
明かりの消えた部屋で
灯される事の無くなった
電球を見つめ
瞼の裏の
明かりの点った部屋を
思い浮かべる


火葬場から出た遺骨は
行き場を失い
街のあちこちで
カラカラと乾いた音を鳴らす
今は
遺骨を拾い集めるのは
少し前まで家々の玄
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