旅立ち/Giton
帰って来なければいいのに!
死んでくるといい!
ああ、なんと華やかな餞(はなむけ)のことば
なんと充実した旅立ちだろう
ぼくの胸は、一点の隙もなくみたされている
午前4時45分の昧爽
あなたの憎しみにくちづけして、ぼくはひらりと生垣を越える:
蒼ざめて透き通る稜線
刺草(いらくさ)絡み合う林底
ぼくはそこに横臥るのだろうか?――
躯(むくろ)を棄て遺し、
紡錘形の魂は
オオシラビソの梢に並め立てて、
ぼくは踏み締めて行く
岩根に消え入りそうな踏み跡を
過去幾たりの人影が攀じたことか
処女雪に足跡を印し
この尾根を辿り終えた者は幾何(いくばく)?
腰を立て直し、もうひと仕切り、
あなたを背に負って進む――
(08/10/06)
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