/rabbitfighter
 
僕が語ることの出来る中で、最も美しい物語を君にあげよう

それは過去形で語られる未来の物語
街を埋め尽くす春の予感
通り過ぎるたびに生まれ変わる新緑の境界
果てしないものは、
広がり続ける人間の眼差し
繁殖することをあきらめた植物たちは
せめて深く根付こうとひそかに企む


これは最も美しい物語
片目だけ眠った子供たちの見る夢
語りつくすだけの時間が足りなかったせいで
夏に追い越された春が僕たちのそばに留まったまま秋になる
降り注ぐ雨を全部飲み込んだら
森はその中心に溢れ出す泉を持つ
突然君は理解する
語られた言葉を
紡がれた物語を
君の血管を駆け巡る血のよ
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