Petloss/シリ・カゲル
 
聞いた調理学校のクラスメイトは、なつきの誕生日に一匹の仔猫を贈ってくれた。よく輝く褐色の毛と気品あふれるゴールドの瞳を持った、生後半年のアビシニアンだった。実家がブリーダーをやってるんだけど、たまたまこの子だけあぶれちゃってね。まあ残り物には福があるっていうし、健康だけは保証するから。なつきが抱くと、仔猫はみゃんと短く鳴いた。
 なつきは仔猫にエルロイと名付けた。大きな耳と大いなる意思を内に秘めたアーモンド型の瞳、長いしっぽとしなやかな筋肉はジェイムズ・エルロイの犯罪小説のなかで活躍する暗黒街の男たちを思わせた。実際にエルロイは狭いワンルームの中を元気よく跳ね回った。何ごとに対しても好奇心旺盛で
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