美しい夜/ さくら
 
音符が遊ぶようにして電線をくぐり
時折、絡まってはファルセットになる
美しく奏でるための


言葉たちは、そうしていつも
行き先を探していて
夜、は手招きをはじめる
屋根、そのオクターブ上から


見上げた夜空では、あの子やこの子の
夢、が美しい顔をしてこちらを見つめるけれど
声だけはなぜか聴こえなかった
ただ、拾い集めることは簡単だった


散らばっている「ff」(フォルテッシモ)を眺めて
さらに底まで落ちていくような


そんな感覚で、いくつかの大切な約束事を失ってゆく
わたしには音がない



窓を開けると、見えない夢を手繰り寄せるように
降りだした雨音が、小さく耳に流れ込んできたので


五線譜と垂直に交わる雨に
「ありがとう。」を伝えたくなった
次の小節へ進むための、


夜、はとても美しかった



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