カンナ/結城 森士
 

1.

 沈んでいく午後の窓辺から、ひとつ夕暮れが生まれる。ぽつ、ぽつ、家の明かりが灯っていく。街は林檎を落としたように熟れていて、傾いていく日差しの中にあってその景色はとても懐かしく感じられた。沙織は、燃えるような夕焼けの中に飛び込んでいき、光の中をどこまでも漂い続けたいと考える。だが、かといって、家の外に出ていきたいというわけではなかった。月に二、三、散歩に出ることもあったが、それは僅かな日の光も届かない夜のあいだに限られた。白い街灯が整然と並んで立っているそのとなりを、行儀よく、はだしで歩いていくだけ。誰にも見つけられることなく、誰にも目をかけられることもなく、目的もなく。俯いて、白
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