赤 (よん)/容子
 

真っ赤な口紅をひいた唇が
びちびち びちびちと
突然せわしなくふるえだしたかと思えば
西の空へ泳ぎ逃げてしまった。

あの日からわたしは言葉をなくした。



赤が右鼻から垂れた。
てっきり
熟れすぎた体から滲みでるといわれる
かの有名な幻の珍魚かと思ったけれど
それではなかったようだ。

あまりの生臭さに
うっかり舐めてしまったことを後悔した。



赤い薔薇の夕焼けに
明日は朝から雨だろうと
歩道橋の真上でふと思っただけなのに
誰かに空の薔薇を荊ともども瞳に投げられた。

そんなちんけな目に
気品漂う高貴な夕焼けの薔薇を
映してた
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