さしすせそが言えなくて/RT
 
て浸かれば
少し呼吸が楽になる

秘密がひとつ解ければ
ひとには言えない事だと理解する
ほらあの窓辺の瓶
なんていう魚の酢漬けだったか

体をシャツごしに軽く拭いて
滴を裾から零しながら
ひたひたと床を素足で歩き
ピアノの蓋を開ける
あなたがよく弾いて聴かせてくれた曲
もうとっくに暗譜している

あなたの真似して弾いてみれば
やけに「ミ」と「ソ」が多い
ハ長調のはずなのに
どうしてこんなに哀しいんだ
内側の海が波立つ

音色は誰の耳にも届かないだろう
逃げるように移り住んだ岸壁の別荘
海に沈む夕日は綺麗だけれど
伝えるあなたはもう戻らない
次は私の番ね

指をオクターヴに開けば
生えたばかりの水掻きが邪魔してもう届かない


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