海に還った祖母に捧ぐ /服部 剛
年が
祖母の遺骨の粉を窓から
風に手放した
あのシーンが蘇る
半身麻痺になってからも
歩き続けた深夜の冷たい廊下で転び
口から血を流しながら
「痛いよ・・・」と
うつ伏せていた祖母よ
最後に我家を去る入院前に
BensCafeの詩の夜へと
出かける僕に布団から
いつまでも手を振っていた祖母よ
若き日のあなたが困難にも負けず
女手一つで子供等のいのちを繋いでくれたから
七里ヶ浜の風の息吹を吸いこむ僕のいのちの鼓動は
潮騒の間に間に今も脈打つ・・・
遠い夜にあなたが暗闇の淵から
「挫けてなるものか」と独り叫んだ声を
何処からか
浜辺の風が運び来る・・・
時に俯(うつむ)く友の顔を
太陽の笑顔で照らし
哀しい瞳に灯をともした
明るい祖母の面影を胸に
目の前に広がる海の前で
独り立つ僕は
頬を伝う涙を、拭いた。
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