海に還った祖母に捧ぐ /服部 剛
 
「 いってきます 」 

顔を覆う白い布を手に取り 
もう瞳を開くことのない 
祖母のきれいな顔に 
一言を告げてから 
玄関のドアを開き
七里ヶ浜へと続く 
散歩日和の道を歩く 

海を見渡す丘の上 
世話になった老人ホームの庭に 
マリア像が立っており 
思わず立ち止まり 
そっと両手を合わせる 

眼下に広がる海に群(むらが)る 
サーファー達の黒影が
煌(きらめ)く波の上に踊る正午 

不思議な力に背中を押されながら 
丘から海へと続く 
墓石の間の石段を踏みしめ 
下りてゆく 

( すべての草花は 
( 在りし日の明るい祖
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