君の背中に追いつかない/秋桜優紀
けは理解できた。
「早く、退院できると良いね」
「あ、うん……」
私自身が、いくら現実から目を背けようとしても、ダメなのだ。一番身近な人が、それを私に突きつけ続けるのだから。今まで大切に育ててきた私のことが心配で堪らないのだろう。それでも、その心配が私の心を抉る痛みに、彼女たちは気付いていない。その状況への嬉しさだとか悲しさだとか、そんな感傷よりもずっと強く、冷たい残酷さが私の胸中を支配しているのを感じる。
母が楊枝に刺しては差し出す林檎を咀嚼していく度、不安や寂しさや悲しさや、そんな不の感情が一緒くたになった澱のようなものが一緒に噛み砕かれて、緩々と私の中のどこかに溜まっていくの
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