君の背中に追いつかない/秋桜優紀
 
した螺旋を描いて重力に従っている。思わず拍手を送りたくなるほどの腕前だ。
「でもさ、入院なんて大袈裟だよね。ちょっと具合が悪いだけなんだから、通院あたりで良いのにさ。ねえ?」
 白く化粧の済んだ実を手の上で櫛形に切り分けた母は、私の愚痴には答えないで林檎を一切れ、楊枝で突き刺して寄越した。「ありがと」と口の中で呟いて一口囓ると、甘酸っぱい香りが口中に広がる。
 林檎の楊枝を弄びながら母を覗き込むと、穏やかな微笑の中に、どこか引きつったような陰を落としているのが見てとれた。それは、普段だったら気付けないくらいの微かさで。だけど、鋭く尖った今の私の感覚には、それがはっきりと鮮烈すぎるくらいに感じ
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