鬼軍曹コアラ!/結城 森士
ガクガクガクガクガクガクガクガガガガガガガカカカカカカカキュイーーーーーーーーーンと揺らされ、ひどい眩暈をこらえ吐きそうになりながら言った。
「ならば、お前だけ一人生きて、祖国へ帰れ」
市川の顔色がさっと変わった。雄たけびを上げ、なにやらよく分からない言葉を発しながら密林の奥深くへ走り去り消えた。
遠くで「大日本帝国万歳」という声と銃声が聞こえた。
コアラはそれすら気にせずに続けた。
「敵軍突撃令の出たその晩、俺は人生最後の夢を見た。日本に戻れないのなら、いっそここで動物園を開いてしまおうという夢だった。そして朝起きたらこんな姿に」
新垣は言った。
「という夢を見たんですよ、市川さん」
「こんな状況によくそんな能天気な夢を見てられるな…。俺なんかまた一睡も出来なかったぞ」
「いつになったら戦争は終わるんでしょうね」
「あぁ」
ここは密林のジャングル。木陰に身を隠しながら、部隊からはぐれた新垣と市川という2人の兵士が休息していた。
時は既に1984年。コアラが日本に始めて来日した年。彼らは40年前に戦争が終わっていることを、まだ知らない。
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