鬼軍曹コアラ!/結城 森士
時は1944年、太平洋戦争の真っ只中の話である。そしてここは密林のジャングル。木陰に身を隠しながら、部隊からはぐれた2人の兵士が息を殺して佇んでいた。一人は20歳前後の若者、もう一人は30前の落ち着いた青年だった。
「…やっぱり、部隊は全滅したのでしょうか?」
押し殺した声で若者が聞いた。
「もしくは俺たちをおいて退却したか、だ」
顔色を変えずに青年が答えた。
「冗談じゃない。…このまま死んでたまるか」
「あぁ、絶対に生きて日本に帰るんだ」
若者は国に置いてきた母親のことを思い出していた。ここで自分が死ぬわけにはいかない。なんとあっても国へ帰り、母親を安心させてやらなければな
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