幻ノ花 /
服部 剛
いずれの花も美しく
膝を抱えて眺めるばかり
ふいに頭上を往き過ぎる
紋白蝶の誘いに
丘の下まで下りてゆき
両手を伸ばせば
花々は ふっ と姿を消してしまう
Mさん、今でも僕は
一体何が本当の美しさなのか
観える視力がありません
若い頃直向(ひたむき)に
探し求めた
いくつかの夢は
何処か遠い駅舎に
置いてきました
深夜の飲食店の片隅で
独り頬杖をついて
もの思う人の
ふりをする
僕の向かいの空席に
幻の花が一輪、咲いています。
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