幻ノ花 /服部 剛
「目線を一歩ずらした所に、詩はあると思います」
何年も前の合評会で
今は亡き講師のMさんは
僕に云った
仕事帰りの夜道を
車のライトで照らしながら辿り着いた
深夜の飲食店で遅い夕餉を終えた僕は
独り頬杖をついて
もの思う人
のふりをする
「目線を一歩ずらした所に、幸せはあると思います」
あの頃より
少しばかり
白髪の混じった僕は
向かいの空席に
そんな返答をする
世の中という野原に
いろとりどりの花々は唄いながら
身を揺らし
誰かに摘まれる日を
何も言わずに待っている
丘の上の青年は
い
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