クロスレット・シルバー /いすず
路地裏の埃塗れの段ボール箱の山が毀れて、中身のがらくたがはみでながら折り重なっている。かびた敷物や、割れたガラス、すすけた卓袱台など、ひとそろいの生活道具は揃いそうなところだ。そのなかからがらくたをリヤカーに載せ、ホームレスのたむろする公園の、蒼のテントまでゆっくり運ぶのは十七、八に満たない千尋だ。冬でも素足で歩き、破れたジーンズは裾をまくっていて、半天もなく、上は一張羅のトレーナーひとつの寒くて痛ましいなりだ。
「ろうそく、あるか、坊」
もう体の自由が利かなくなりつつあるひげのおじいが、千尋のリヤカーをみていう。ポケットをまさぐって、マッチを外箱と中身三本だけわたすと、積んだ荷からろうそくの
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