君の背中に追いつかない/秋桜優紀
こらえきれずに流した塩辛く口中を染める涙の一筋だった。
病院の廊下を練り歩いたところで、そこまで気が晴れるものでもない。でも、赤く充血してしまった目が元に戻るまでは仕方がない。
辺りに充満しそうになる独特の消毒薬の臭いを、開け放たれた窓からの風が爽やかに払う。そんな感触までもが、今の私には腹立たしくて仕方ない。隔離された狭い世界にもたらされた、どこか遠くにある広い世界からの余計なお節介のような気がして。
私も少し前まではそこにいた。当たり前の顔をして、それが幸せだなんてことには気付かずに。悔しい。十六年と少しでその生涯を閉じなければいけないなんて、余りにも不幸すぎるじゃないか。私には
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