在りし日のペペロンチーノ/ブルース瀬戸内
オリーブオイルを掌で操り
この世の春を謳歌したのだ。
それを黙して語らないとは
なんたる謙虚なペペロンか!
礼節をわきまえ過ぎている。
ペペロンの矜持に恐れ入る!
とはいえ、君は食べられた。
正直に言おう。僕が食べた。
僕は世界を食べ切ることは
決してできないだろうけど、
君を食べ切ることはできる。
ただ一本も残すこともなく。
君は立派なペペロンだった。
実に美味しくいただいたよ。
君にそっと添えられていた
トマトスープも美味だった。
君が僕の血肉となることで
これまでと違うまなざしで
世界を眺めることになって
ペペロン具合を忘れたって
僕がしっかりと伝えていく。
君ほどのペペロンチーノが
存在していたということを。
夢をありがとう、ペペロン。
涙を流さないで、ペペロン。
割とニンニクまみれの涙を。
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