ロンドンの赤い電話ボックス 〜 異人館にて ? 〜 /服部 剛
 
「TELEPHONE」という黒文字の上に 
小さい金の王冠が描かれた 
ロンドン旧市街の赤い電話ボックスが 
洋館の芝生の庭の木陰にひっそりと立っていた 

硝子のドアをぎぃと開けば 
木造りの引き出しの上 
レトロな電話に傾いて置かれた 
細い受話器を手に取り 
ひんやりと耳に当てる 

黒いボタンに白字の数字で 
輪になっているダイヤルの 
秘密の電話番号を一つずつ、押す・・・ 

「Hello?」 

それは遠い異国の昔話 
モノクロームのシーンで 
街頭のともる夜に 
コートを着た背の高い白人が 
受話器越しに囁く愛の言葉・・・ 

神戸の空の雲間から 
太陽は顔を出し 
木陰の赤い電話ボックスに 
ひかりが射す 

傷心のままに流離(さすら)う旅人の僕は 
あの女(ひと)へ届くことの無い
恋文を一通 
電話の下の引き出しに入れて 
硝子のドアを開いた 







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