敬愛する遠藤周作先生への手紙 〜神戸旅行記〜 /服部 剛
 


  遠藤周作様 


 年末年始の神戸への旅を終えた今、あなたの故郷である地で過ごしたかけがえのない時間を無駄にすることの無いよう、僕は自らの弱い心にもう一度、これからの日々の決意をする為の手紙を、ここに記したいと思います。 

 新年の初めの日であった昨日は今回の旅の最後として、夫と別れた母と幼年期の遠藤先生がかつて過ごした家のあった場所に行きました。もうすでに、別の人が住む、新しい家が建っていました。僕は瞳を閉じて、ある哀しい母と少年が手を繋いで、かつてこの道を歩いた情景を想像しました。母子が家の玄関の戸の中へ吸い込まれてゆくと、素朴な一つの電球が、母と少年の家庭の灯の象徴と
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