風の寅次郎・2 /服部 剛
 
川の向こう岸に 
「矢切の渡し」と赤字で書かれた 
白旗が 
緩やかになびいている 

広々とした土手に座った僕は 
右半身を暖かい日にそそがれながら 
左半身を冷たい北風に吹かれながら 

日射しと風の混ざり合った 
寅さんの幻が 
ぽん 
と隣で肩を叩けば 
満男の気分になってくる 

( 伯父(おじ)さん、今日の雲はいいですねぇ・・・

( あんな雲に、なりてぇなぁ・・・ 

年末に団欒する 
家族を乗せた舟が一艘 
ゆったりと 
さやかに水の音のする 
川の向こうを横切る 

( さて、そろそろ 
( 夢の続きを見るとするか・・・ 
( じゃ、また 

寅さんの幻が姿を消すと 
葉の少ないやせっぽちな木が 
何故だかしきりに喜んで 
これから旅に出る僕の 
目の前で踊っていた 





 ※ この詩の台詞は
  「人生に、寅さんを」(キネマ旬報社)
   を参考に書きました。 




戻る   Point(4)